AIエージェント時代における計算機科学教育の存亡と進化: 2026年2月13日現在

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最近 Claude Code や OpenAI Codex のようなAIエージェントの性能が上がって「人間がプログラムを書く必要がない」といった声をよく聞くようになりました。

このような状況において計算機科学を学ぶ意義はどうなっていくのかと思い、Google Gemini 3 Pro Deep Researchで調べてみました。

使ったプロンプトはこれです。

Claude CodeやCodexを使うとソフトを作れるが、今後学生がコンピューターサイエンスやプログラミングを学ぶのは意味があるか?

1. 序論:コード生成からエンジニアリングの民主化へ

2026年2月現在、ソフトウェア開発の風景は、かつてない速度で変貌を遂げている。AnthropicのClaude Code (Opus 4.6)やOpenAIのCodex (GPT-5.3)といった高度なAIエージェントの登場は、単なる「開発支援ツール」の枠を超え、ソフトウェアエンジニアリングの定義そのものを根本から問い直す事態を引き起こしている1。かつて「プログラミング」とは、人間が機械語に近い論理を構文(シンタックス)として記述する行為であったが、今やそれは自然言語による「意図の伝達」へと抽象度を高めつつある。

「Vibe Coding(ヴァイブ・コーディング)」と呼ばれる現象—詳細な実装方法を知らなくても、AIに対して「なんとなくの雰囲気(Vibe)」や高レベルな要件を伝えるだけで機能的なアプリケーションを作成できる状況—は、技術の民主化を極限まで押し進めた3。この状況下において、「なぜ苦労して計算機科学(Computer Science: CS)やプログラミングを学ぶ必要があるのか?」という問いは、学生、教育機関、そして産業界にとって極めて切実かつ存亡に関わるテーマとなっている。

本報告書は、AIエージェントが「実装(Implementation)」をコモディティ化した2026年の現在において、計算機科学教育が持つ意味を再定義することを目的とする。結論を先取りすれば、コードを書く能力(Coding)の市場価値は暴落している一方で、システムを設計し、AIを指揮し、その安全性を担保する能力(Engineering)の価値は、逆説的に過去最高レベルにまで高まっている。本稿では、技術、労働市場、セキュリティ、教育カリキュラムの観点から、その構造的変化を詳細に分析する。

2. 2026年の技術的現状:自律型エージェントの能力と限界

「学ぶ意味」を論じる前に、現在のAIツールが実際に「何ができ、何ができないのか」を正確に把握する必要がある。2023年頃の「Copilot」時代とは異なり、2026年の開発環境は「Agentic AI(エージェント型AI)」によって特徴づけられる。

2.1 Agent HQと自律型ワークフローの確立

GitHubやVS Codeなどの統合開発環境(IDE)には、「Agent HQ」と呼ばれるプラットフォームが統合され、開発者は複数のAIモデルを適材適所で使い分けることが可能となっている1。これは単なるチャットボットではなく、タスクを与えれば自律的に計画立案、コード修正、テスト実行、デバッグを行う「仮想の同僚」として機能する。

表1:主要AIコーディングエージェントの能力比較(2026年時点)

エージェント基盤モデル特性・強み主な用途
Claude CodeOpus 4.6「思慮深いエンジニア」
複雑な推論、アーキテクチャ設計、トレードオフの説明に優れる。100万トークンを超えるコンテキストウィンドウを持ち、リポジトリ全体を理解する能力が高い2
新規機能の設計、複雑なバグの原因究明、リファクタリング計画の立案
OpenAI CodexGPT-5.3「自律的なビルダー」
圧倒的な実装速度と量産能力を持つ。明確な仕様に基づき、大量のボイラープレートコードや定型的な機能を高速に生成することに特化している2
APIの実装、テストコードの大量生成、レガシーコードの言語移行、単純作業の自動化
GitHub Copilot AgentHybrid (GPT-5/Sonnet)「統合型アシスタント」
IDEと深く統合され、開発者のカーソル位置や開いているファイルをリアルタイムに分析。低レイテンシでの提案を行う6
リアルタイムのコード補完、直前の行に基づく予測、インラインでの修正提案

2.2 「Vibe Coding」の台頭と「品質の逆転」

「Vibe Coding」は、自然言語処理能力の飛躍的な向上により可能となった新しい開発スタイルである。ユーザーは「ダークモード対応のToDoアプリを作って」と指示するだけで、Reactのコンポーネント、CSS、バックエンドのAPIまでもが自動生成される3。これにより、非エンジニアでもプロトタイプを作成できるようになった。

しかし、ここで「品質の逆転(Quality Inversion)」という現象が発生している。

  • 見た目の完成度: AIが生成するコードは、一見すると洗練されており、動作もする。
  • 内部の脆弱性: その内部構造はしばしば、保守性やセキュリティを無視した「つぎはぎ」である場合が多い。AIは「動くこと」を最優先し、長期的なメンテナンスコストやスケーラビリティを考慮しない傾向がある7

専門家は、AIエージェントによる開発が「アーキテクチャのオートコンプリート(Architecture by Autocomplete)」を引き起こしていると警告している。これは、全体的な設計思想を持たずに局所的な最適解を積み重ねた結果、無数のマイクロ抽象化(Micro-abstractions)や漏洩したドメインモデル(Leaky domain models)が散乱し、人間が理解不能なスパゲッティコードが生成される現象である9

2.3 エージェントの限界:文脈と責任の欠如

どれほど高度なAIであっても、2026年時点では以下の壁を突破できていない。

  1. 組織的コンテキストの欠如: AIはリポジトリ内のコードは読めるが、「なぜその設計が選ばれたのか」という歴史的経緯や、社内の政治的・規制的な制約(例:特定のライブラリが禁止されている理由)を理解していない10
  2. 責任能力の不在: AIは自信満々に誤ったコード(幻覚)を生成する。特にセキュリティに関しては、機能要件を満たすために安全装置(入力検証など)を勝手に外すケースが報告されている11
  3. 完全委任の不可能性: Anthropicの調査によれば、開発者は業務の60%でAIを使用しているが、AIに「完全に任せきり(Full delegation)」にできるタスクは全体の0〜20%に過ぎない10。残りの部分は、人間による監視、修正、統合が必要である。

したがって、技術的現状は「人間が不要になった」のではなく、「人間の役割が『書き手』から『監督者』にシフトした」と捉えるべきである。

3. エンジニアリングの役割転換:コーダーからオーケストレーターへ

AIエージェントの普及に伴い、ソフトウェアエンジニアに求められるスキルセットと役割は劇的に変化している。労働市場においては、「初級プログラマ」の需要が消滅する一方で、「システム全体を俯瞰できるアーキテクト」の需要が急増するという二極化が進行している。

3.1 「初級者」の消滅とキャリアパスの危機

かつて、コンピュータサイエンス学部の卒業生やブートキャンプ修了者は、単体テストの記述、単純なAPIエンドポイントの作成、UIの実装といった「定型業務」を通じて経験を積み、シニアエンジニアへと成長していった。しかし、2026年現在、これらのタスクはAIエージェントが最も得意とする領域であり、人間が介在するコストに見合わなくなっている3

  • 採用の凍結: 一般的なプログラミング業務における初級レベルの求人は、20〜25%減少しているとのデータがある3。企業は、AIを使えばシニアエンジニア1人でジュニア3人分の仕事ができるため、教育コストのかかる新人を採用する動機を失いつつある。
  • メンターシップの崩壊: ジュニアが育つための「丁稚奉公」的なタスクが自動化されたことで、次世代のシニアエンジニアをどう育成するかという「メンターシップ・クライシス」が業界全体の課題となっている13

3.2 「AIオーケストレーター」としてのエンジニア

これに代わって登場した新しい役割が「AIオーケストレーター」である。これは、AIエージェントという「無限の労働力」を指揮し、複雑なシステムを構築する役割である10

  • コンテキスト・エンジニアリング: AIに対して適切な情報を与える能力。単なるプロンプトエンジニアリングではなく、リポジトリの構造、ドキュメント、設計思想をAIのコンテキストウィンドウに効率的にロードし、AIが「幻覚」を起こさないように環境を整える技術が求められる15
  • マルチエージェント調整: 複雑なタスクにおいて、例えば「Codex」にコードを書かせ、「Claude」にレビューさせ、「Copilot」にテストを書かせる、といったように、異なる特性を持つモデルを連携させて成果物の品質を担保する能力が必要となる1
  • 仕様策定能力(Spec-Driven Development): AIは曖昧な指示には曖昧なコードで返す。そのため、エンジニアは自然言語で極めて厳密かつ論理的な仕様書(Spec.mdなど)を作成する能力が不可欠となる16。コードを書く力よりも、日本語や英語で論理的な要件定義を行う国語力・論理構成力が問われるようになっている。

3.3 「100倍エンジニア」の正体

「100倍エンジニア(100x Engineer)」という言葉が2026年のトレンドとなっているが、これは個人の処理能力が100倍になったわけではない。AIエージェントを活用することで、1人で100人分の「単純作業」を並列処理できるようになったエンジニアを指す14。しかし、100人分のコードが生成されるということは、100人分のバグやセキュリティリスクも同時に生成されることを意味する。したがって、それを監査・管理する能力がなければ、プロジェクトは破綻する。

4. 計算機科学(CS)の基礎知識の永続的価値

「AIがコードを書くなら、CSの学位は不要ではないか?」という疑問に対し、業界の専門家やアカデミアの回答は「否」であり、むしろ「基礎知識の重要性は増している」との見解で一致している。AIは表面的な「実装」を代行するが、深層にある「原理」までは保証しないからである。

4.1 ブラックボックス問題とデバッグ能力

AIエージェントが生成するシステムは、利用者にとっては巨大なブラックボックスとなる。システムが正常に動作している間は問題ないが、ひとたび障害が発生した際、AIに頼り切りの「Vibe Coder」は手も足も出なくなる。

  • 「全知全能のコンピュータ・ジーニアス」の必要性: CIO誌が指摘するように、AIが理解できない「不可解で難解な問題」を診断できるのは、深い基礎知識を持つ人間だけである17
  • OSとネットワークの知識: 例えば、AIが生成したマイクロサービス間通信で遅延が発生した場合、それがTCPの再送制御によるものか、DNSの解決遅延か、あるいはデータベースのロック競合かを切り分けるには、オペレーティングシステム(OS)やネットワークプロトコルの知識が不可欠である18。AIは「遅い」とは教えてくれても、「なぜ遅いか」の根本原因(Root Cause Analysis)においては依然として人間に劣る場合が多い。

4.2 計算論的思考(Computational Thinking)

AI時代のリテラシーとして、コーディングスキル以上に重要視されているのが「計算論的思考(Computational Thinking)」である19。これは、問題をコンピュータが解決可能な形式に定式化する思考プロセスを指す。

  1. 分解(Decomposition): 巨大なビジネス課題を、AIエージェントが処理可能な単位(関数、モジュール、マイクロサービス)に分割する能力。
  2. 抽象化(Abstraction): 不要な詳細を捨て、本質的なデータ構造やインターフェースを定義する能力。AIは具体的な実装は得意だが、適切な抽象度を設定するのは苦手である。
  3. パターン認識(Pattern Recognition): 過去の事例から、現在の問題に適用可能なアルゴリズムやアーキテクチャパターンを見抜く能力。

Jeannette Wing教授(コロンビア大学)が提唱するように、プログラミング言語の構文(Syntax)はコモディティ化したが、この計算論的思考こそが、AIを「使う側」と「使われる側」を分かつ分水嶺となる21

4.3 歴史的教訓:抽象化の階段

現在の状況は、1950年代にコンパイラが登場した際の状況と酷似している22。当時、アセンブリ言語のプログラマは「FORTRANのような高級言語は非効率で、プログラマの仕事を奪う」と恐れた。しかし実際には、抽象度が上がったことでより複雑なソフトウェア(OS、インターネット、スマホアプリ)が作れるようになり、ソフトウェア産業は爆発的に成長した。

AIは「次なる抽象化のレイヤー」に過ぎない7。アセンブリがC言語になり、C言語がPythonになったように、Pythonは「プロンプト」や「自然言語による仕様記述」に置き換わろうとしている。しかし、抽象化が進めば進むほど、その下層(レイヤー)で何が起きているかを理解しているエンジニアの希少価値は高まる。AIが生成したコードが非効率なメモリ操作を行っているとき、それを指摘できるのはCSの基礎(メモリ管理、ポインタ、計算量理論)を知る者だけである。

5. セキュリティの必須性:人間が介在すべき決定的理由

AIコーディングにおける最大のリスク、そして人間が学習を継続すべき最大の理由は「セキュリティ」にある。2026年の調査データは、AI生成コードの脆弱性が深刻なレベルにあることを示している。

5.1 「自信満々の幻覚」と脆弱性

AIモデルは、確率論的に「もっともらしい」コードを生成するように訓練されているが、「安全な」コードを生成するように厳密に保証されているわけではない。

  • 45%の失敗率: Veracodeの「2025 GenAI Code Security Report」によると、AIが生成したコードの**45%**に、OWASP Top 10に含まれる脆弱性が含まれていた11
  • 言語別のリスク: 特にJavaにおいては、**72%**という高い確率でセキュアでないコードが生成された。
  • 具体的な脆弱性: クロスサイトスクリプティング(XSS)の脆弱性は**86%の確率で混入し、SQLインジェクションも20%**の確率で発生した11

AIは「入力値をサニタイズ(無害化)する」というセキュリティの基本動作を、明示的に指示されない限り省略する傾向がある。なぜなら、サニタイズコードは機能的な動作には寄与しない「ノイズ」として統計的に処理されやすいからである。

5.2 DeepSeek事件と政治的バイアスによる脆弱性

2026年初頭に発覚した「DeepSeek事件」は、AIの安全性における新たな懸念材料となった。CrowdStrikeの研究者がDeepSeek-R1モデルを調査したところ、政治的に敏感なトピック(チベット問題など)を含むプロンプトを入力した場合、通常のプロンプトと比較して50%も多くセキュリティ脆弱性を含むコードが生成された11。 これは、AIモデルのトレーニングデータやアライメント(調整)プロセスにおけるバイアスが、生成されるコードの品質や安全性に予期せぬ影響を与えることを示唆している。このような「非決定論的なリスク」は、従来の静的解析ツールでは検出が困難であり、人間の専門家による監査が不可欠であることを証明している。

5.3 国際AI安全性報告書2026の警告

ヨシュア・ベンジオらが主導した「国際AI安全性報告書2026(International AI Safety Report 2026)」は、汎用AIシステムが「ソフトウェアの脆弱性を発見し、悪意のあるコードを作成する能力」を急速に高めていると警告している23

  • 攻撃の自動化: 攻撃者はAIを用いて、オープンソースソフトウェアの脆弱性を大規模にスキャンし、攻撃コード(エクスプロイト)を自動生成し始めている。
  • 防御の重要性: これに対抗するためには、AIを用いた防御システムの構築が必要だが、最終的な判断を下す「Root of Trust(信頼の基点)」は人間でなければならない。AI同士の攻防において、AIの判断を盲信するシステムの脆さが指摘されている25

結論として、セキュリティエンジニアリングは、AIに完全に委任できない領域であり、CS教育における最重要科目の一つとなっている。

6. 教育カリキュラムの革命:大学はどう変わったか

こうした技術的・社会的要請を受け、主要な大学や教育機関はカリキュラムの刷新を急ピッチで進めている。

6.1 シンタックスからシステムへの移行

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)やトロント大学を中心とする「GenAI in CS Education Consortium」は、プログラミング教育の重心を「構文の暗記」から「システムの設計」へと移している27

  • 旧来の試験: 「バブルソートのアルゴリズムをJavaで手書きせよ」
  • 2026年の課題: 「AIを使用して3種類のソートアルゴリズムを生成し、それぞれの時間計算量とメモリ効率を比較し、この特定のデータセットに対してなぜクイックソートが不適切なのかを論理的に説明せよ」

このように、AIを「不正行為(Cheating)」とみなすのではなく、「計算機(Calculator)」と同じような必須ツールとして組み込んだ教育が行われている。

6.2 「サンドイッチ方式」の教育法

教育現場では「サンドイッチ方式」と呼ばれるアプローチが主流となりつつある29

  1. 上層(人間): 問題の定義、要件の策定、アーキテクチャの決定。
  2. 中層(AI): コーディング、テストケースの生成、ドキュメント作成(AIによる自動化)。
  3. 下層(人間): 生成物の検証、デバッグ、統合、倫理的・セキュリティ的監査。

このプロセスを通じて、学生はAIが得意とする「実装」を委任しつつ、人間が責任を持つべき「設計」と「監査」に注力する訓練を受ける。

6.3 2026年の必須科目

ABET(米国工学認証委員会)の2025-2026年基準や各大学のカリキュラム案では、以下の科目が重要視されている30

  1. AIリテラシーと倫理: AIのバイアス、幻覚、法的責任(知的財産権など)を理解する。
  2. 分散システム: クラウドネイティブな環境で、複数のAIエージェントやマイクロサービスが連携する仕組みを学ぶ32
  3. ソフトウェア検証と妥当性確認(V&V): AIが書いたコードが正しいことを数学的・論理的に証明する手法(形式手法など)。
  4. ドメイン特化知識: CSの知識を、バイオインフォマティクス、金融工学、ロボティクスなどの特定領域と掛け合わせることで、AIにはない「現場のコンテキスト」を持つ人材を育成する33

7. 経済的展望:CS学位の投資対効果

「AIがコードを書くなら、CS学位はオワコンではないか?」という懸念に対し、労働市場のデータは「二極化」という回答を示している。

7.1 「中途半端なスキル」の無価値化

市場から退場を迫られているのは、「ブートキャンプで3ヶ月Reactを学んだだけ」のような、表面的なコーディングスキルしか持たない層である。彼らが行っていた定型的なWeb制作や単純なアプリ開発は、Vibe Codingによって代替されつつある。実際、初級レベルのプログラミング職の求人は減少傾向にある3

7.2 高度人材への需要爆発

一方で、米国労働統計局(BLS)の予測(2033年まで)によれば、コンピュータ・情報関連職種の雇用は22%増加するとされており、これは全職種平均を大きく上回る35。需要が集中しているのは以下の領域である。

  • データサイエンティスト/AIエンジニア: AIモデル自体の開発やチューニングを行う専門家。
  • セキュリティスペシャリスト: AIが生成する脆弱性に対処し、サイバー防御を構築する人材。
  • クラウドアーキテクト: 複雑化するシステムインフラを設計・運用する人材。

これらの職種は、深いCSの知識(数学、統計学、アルゴリズム、ハードウェア)を必要とし、AIによる代替が困難である。

7.3 日本市場における示唆

日本の文脈においても同様の変化が見られる。プログラミング教育の必修化が進む一方で、「単にコードが書ける」だけでは付加価値にならなくなっている。日本のトップ大学(東京大学など)も、AI時代のCS教育において、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)といった社会課題と絡めた「応用力」を重視する方向に舵を切っている36。 「Vibe Coding」は、日本の深刻なIT人材不足を緩和する特効薬として期待される一方、SIer(システムインテグレーター)構造においては、AI生成コードの品質保証(QA)責任を誰が負うかという新たな法的・契約的課題を生み出している。この点においても、技術的な裏付けを持って契約や仕様を詰められるCS人材の価値は高まる。

8. 結論と提言:CSルネサンスの到来

以上の調査から導き出される結論は、計算機科学教育は「不要」になるどころか、**「ルネサンス(再興)」**を迎えているということである。AIは「コーディング」という単純作業から人間を解放し、計算機科学の本質である「問題解決」と「システム設計」に集中できる環境を提供した。

8.1 学生への提言:T型人材を目指せ

今後学生が学ぶべきは、AIには代替できない「深さ」と「広さ」である。

  • 基礎を疎かにしない: OS、アルゴリズム、離散数学といった「古臭い」科目こそが、AIのブラックボックスを解き明かす鍵となる。流行りのフレームワークはAIが教えてくれるが、基礎理論は自分で体系的に学ぶ必要がある。
  • AIを使い倒す: ClaudeやCodexを「カンニングペーパー」ではなく「家庭教師」として使う。わからないコードがあればAIに解説させ、逆にAIのコードを批判的にレビューする習慣をつける。
  • ドメイン知識を持つ: CS × 医療、CS × 法律、CS × 農業など、計算機科学を武器として適用する「現場」を持つことが、AIに対する最大の差別化要因となる。

8.2 教育機関への提言:評価軸の転換

大学や専門学校は、学生の評価軸を「どれだけ正確にコードを暗記しているか」から「どれだけAIを活用して高度な問題を解決できるか」にシフトすべきである。

  • デバッグ試験: AIにわざとバグのあるコードを生成させ、学生にその原因を特定・修正させる試験を導入する。
  • 大規模システム演習: 個人で小さなプログラムを書くのではなく、AIエージェントチームを指揮して、大規模な分散システムを構築・運用する演習を行う。

8.3 産業界への提言:新たなメンターシップ

企業は、AIによって失われた「OJT(オンザジョブトレーニング)」の機会を補完する新たな育成システムを構築する必要がある。ジュニアエンジニアには、AIが生成したコードの「コードレビュー」を担当させることで、他人のコード(AIのコード)を読む力と、品質を見極める目を養わせることが有効である。

2026年、計算機科学を学ぶ意味は「プログラマになるため」ではない。「AIという最強の知的パートナーを正しく理解し、指揮し、責任を持つリーダーになるため」である。そのための教養として、CSはかつてないほど重要な意味を持っている。

付録:主要データ・参照テーブル

表2:AI生成コードのセキュリティリスク分析(Veracode 2025レポート

11より)

脆弱性タイプAI生成コードの失敗率(混入率)備考
クロスサイトスクリプティング (XSS)86%AIは文脈に応じたエスケープ処理を苦手とする。
SQLインジェクション20%プレースホルダを使わず、文字列連結を行う傾向がある。
全体的なOWASP Top 10脆弱性45%一般的なWebアプリケーションの脆弱性の約半数が含まれる。
言語別リスク(Java)72%Javaの冗長な記述において、セキュリティ対策を省略しやすい。

表3:エンジニアの役割変化(2023年 vs 2026年)

12

項目2023年(Copilot時代)2026年(Agentic AI時代)
主な作業コードの手書き、Google検索、Stack Overflow参照エージェントへの指示出し、仕様策定、コードレビュー
生産性の単位行数(Lines of Code)機能数(Features Shipped)、システム安定性
必要なスキル文法知識、ライブラリの暗記コンテキストエンジニアリング、システム設計、監査
ジュニアの仕事単体テスト、単純なバグ修正、HTML/CSS修正(消滅またはAIが担当) → 上流工程の補佐へシフト
開発スタイル個人のコーディングAIエージェント群との協働(オーケストレーション)

以上

引用文献

  1. Pick your agent: Use Claude and Codex on Agent HQ, 2月 12, 2026にアクセス、 https://github.blog/news-insights/company-news/pick-your-agent-use-claude-and-codex-on-agent-hq/
  2. Codex vs Claude Code vs GitHub Copilot: Which AI Coding Tool Actually Fits Your Workflow in 2026? | by Basky | Dec, 2025 | Medium, 2月 12, 2026にアクセス、 https://medium.com/@baskys.blues/codex-vs-claude-code-vs-github-copilot-which-ai-coding-tool-actually-fits-your-workflow-in-2026-efb96997b56a
  3. Why the Classic Computer Science Degree Might Leave You Jobless in 2026 – And What to Do Instead, 2月 12, 2026にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=SiyFa3Ai_Lg&vl=pt-BR
  4. GitHub previews support for Claude and Codex coding agents, 2月 12, 2026にアクセス、 https://www.infoworld.com/article/4130352/github-previews-support-for-claude-and-codex-coding-agents.html
  5. Introducing Claude Opus 4.6 – Anthropic, 2月 12, 2026にアクセス、 https://www.anthropic.com/news/claude-opus-4-6
  6. GitHub Copilot · Your AI pair programmer, 2月 12, 2026にアクセス、 https://github.com/features/copilot
  7. From Compilers to AI: The Great Abstraction Ladder Keeps Climbing | by Ivo Titscher | AGAILE | Medium, 2月 12, 2026にアクセス、 https://medium.com/agaile/from-compilers-to-ai-the-great-abstraction-ladder-keeps-climbing-deecea34ccc4
  8. A Case Against Abstraction – DEV Community, 2月 12, 2026にアクセス、 https://dev.to/puritanic/a-case-against-abstraction-118o
  9. AI-Assisted Development in 2026: Best Practices, Real Risks, and …, 2月 12, 2026にアクセス、 https://dev.to/austinwdigital/ai-assisted-development-in-2026-best-practices-real-risks-and-the-new-bar-for-engineers-3fom
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  13. What an AI-Generated C Compiler Tells Us About the Future of Software Engineering, 2月 12, 2026にアクセス、 https://www.reddit.com/r/learnprogramming/comments/1r2yg0w/what_an_aigenerated_c_compiler_tells_us_about_the/
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  19. Computational Thinking is Key to Effective Human-AI Interaction | Codility, 2月 12, 2026にアクセス、 https://www.codility.com/blog/computational-thinking-the-key-to-effective-human-ai-interaction/
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  22. When Compilers Were the 'AI’ That Scared Programmers – Vivek Haldar, 2月 12, 2026にアクセス、 https://vivekhaldar.com/articles/when-compilers-were-the–ai–that-scared-programmers/
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